アナグマの暮らす穴の中は、意外に起伏が激しいものだそうです。
窮屈な穴の中で、それらの段差を登ったり降りたりしながら獲物を
追い詰める仕事をしていたダックスフンドですから、高い運動能力
を持っていることは容易に想像がつきます。
そして、1度穴に入れば、あとはすべて単独行動となります。
自分のやるべきことがきちんとわかっていなければ、その仕事を
こなすことはできません。
そんなことから、
訓練性能の高さもうかがうことができます。
JKCが開催している訓練競技会やアジリティの大会などでも、
活躍しているダックスフンドの姿をよく見かけます。
特に、猟犬としての仕事内容とも共通点が多いアジリティは、実際に猟に使われることのない
日本のダックスフンドが、その作業意欲を満たすために最適の競技と言えるでしょう。
家庭犬としてもすばらしい素質を持ったダックスフンドですが、その犬種の性質を活かして、
飼い主さんと共に何かに挑戦するというのも、また格別の喜びをもたらしてくれるものです。
もし、機会があったらそんなドッグスポーツにも挑戦してみたらいかがでしょうか?
どの犬種でも、人と上手に暮らしていくためには、最低限のしつけは必要なものです。
中でも、訓練性能が高く、賢い犬というのは、逆にその賢さゆえの問題点も出てしまうものです。
人の行動パターンを先読みしたり、悪知恵ばかりが働いてしまう前に、飼い主さん自身が
その犬の性質をきちんと理解し、必要なしつけをしっかりと行うように心がけましょう。
ここではダックスフンドに起きやすい問題点について、いくつかご紹介しておきたいと思います。
1.無駄吠え
ダックスフンドは、穴の中でアナグマなどの獲物を追い詰めたとき、
外にいる猟師にその場所を知らせるために吠え続けるのが仕事でした。
必要なときに吠え続け、そうでないときにはまったく吠えないということです。
そして、地中の穴の中から外にいる人間に聞こえるように吠えるわけですから、
その声はとても大きい・・・と言うより大きくなければいけませんでした。
本来必要なとき以外は吠えないのがダックスフンドなのですが、日本では、
実際に猟をするわけでもなく、そんな訓練もされているわけではありませんので、
やはり無駄吠えの問題はとても多く見られるようです。
実際はそれほど吠えていなくても、
ダックスフンドの声は大きいので、
目立ちやすく、騒音としてトラブルにつながってしまうケースもあるようです。
ダックスフンドの無駄吠えは、ほかの犬や猫などの動物を見たときや、人に何かの要求があり、
呼ぼうとしているときなど、その猟犬としての本能から起きるものが多いようです。
この本能から出る問題点を完全にやめさせるのは非常に難しいことです。
でも、人の指示に従って行動することも、また猟犬としての本能であるはずですよね。
そこで、
そちらの本能を活かして、吠えても指示によってすぐにやめるようにするなど、
その子に合った方法で、問題点を解消するように工夫することが大切なのではないでしょうか。
また、最近のダックスフンドには、本来ならば持っているはずのない気質によって、
吠え続けてしまう子も多く見られるようになってきました。
人に触られることを極端に怖がったり、尻尾を巻き込むようにして吠え続けたり・・・
こうした極端な恐怖心や警戒心は、本来ダックスフンドには見られない気質です。
子犬は生後半年ぐらいまでの間に、実にたくさんのことをその環境の中から学んでいきます。
親犬や他の兄弟たちとのじゃれあいや遊びの中から、犬同士のコミュニケーションを学び、
飼い主との安全な生活から人との信頼関係を気づいていきます。
そして、外に出て、いろいろなものを見て、いろんな音を聞くことにより、
外の世界がどういうものなのかを知ります。
また、自分以外の動物を見たり、他人と触れ合ったりする経験をすることで、外の世界も
よその人も見慣れない動物たちも、みんな安全で信頼できるものであることを学んでいくのです。
こうして、この時期にたくさんの経験をすればするほど、その子犬は精神的に安定し、
より上手に人と暮らしていけるように成長していきます。
これを
子犬の社会化といいます。
あまりに早い段階で親や兄弟たちと離されてしまったり、新しい家族との暮らしも留守番ばかりで、
人とのコミュニケーションが十分取れなかったり、外に出る経験をしていなかったりすると、
その子犬はきちんと社会化されることがないまま大人になってしまいます。
こうして社会化されないまま大人になってしまった犬は、見知らぬ人や動物、聞きなれない音など
に過敏に反応し、強い恐怖心を持つことがあります。そしてその恐怖心が、吼え続けることや
攻撃性につながっていってしまうのです。
本来ならば安心していられるはずの場所で、過度の恐怖心や警戒心を持ち続けているのは、
その犬にとっても大きなストレスになります。
そんなことにならないように、子犬のときからたくさんの経験をさせ、必要なしつけもしっかりと行い、
愛犬との生活を楽しいものにできるよう、ほんのちょっとの努力をしてあげてください。
2.拾い食い
これもまたダックスフンドには非常に起きやすい問題です。
足が短く、頭部がより地面に近いこともありますし、獲物の匂いを嗅いで追及していく
猟犬としての本能もあります。
悲しいことに日本の現状では、道端にはいろいろなものが落ちています。
タバコの吸殻や焼き鳥の串など、犬が口にすることで大きな危険を伴ってしまうものもあります。
また人が捨てたものでなくても、小さな石などを食べてしまえば、
腸に詰まって腸閉塞を起こしたりする可能性もあります。
拾い食いは、一度癖になってしまうと、なかなかやめられない困った問題でもあります。
拾い食いには危険が伴うことをわかっている飼い主さんにとって、
それを続ける愛犬とのお散歩は大きなストレスになってしまうことでしょう。
そんな風にならないためにも、お散歩中も犬とのコミュニケーションが取れるように、
小さいときから、きちんとしたしつけを心がけたいものですね。
3.繁殖は難しい
「飼っている愛犬の子供を見たい」…犬を飼っている方なら、
誰でも1度は思うことかもしれません。
昔から犬は安産のお守りと言われていますので、犬のお産は安全なものと思われ、
軽い気持ちで繁殖を考える人が多いのも事実のようです。
でも、実際には、お産のときのトラブルも多く、犬のお産はけして安産などではありません。
また、ダックスフンドの場合、掛け合わせてはいけない毛色の組み合わせなどもあり、
しっかりとした知識と経験がなければ、その判断も難しいものなのです。
してはいけない組み合わせから生まれてきた子犬は、
健康面での重篤な問題が出る可能性が高く、とても不幸な結果をもたらします。
それでも、どうしても繁殖をしたいと言う方は、きちんと勉強をし、
十分な知識と経験があるベテランのブリーダーさんにアドバイスを受けるなどをして、
不幸な子犬が増えるようなことだけは避けて欲しいものです。
ダックスフンドの豊富なカラーを生み出しているのは、
いくつもの遺伝子の組み合わせによるものです。
色を決める役割をしている遺伝子や、模様を出す出さないを決める遺伝子・・・それらの
組み合わせによって、ダックスフンドの豊富なカラーバリエーションが作られているのです。
でも、その遺伝子の中には、複数の遺伝子が重なることによって、様々な体の機能の形成を
妨げたり、機能そのものに悪い影響を及ぼしたりしてしまうものがあります。
ここでは、問題のある組み合わせについて、簡単にいくつかご紹介しておきたいと思います。
◎ダップルの交配
ダップルの模様を出す出さないは、マール(ダップル)遺伝子と呼ばれるもので決まります。
ダップルの模様が出るものがMで、出ないものがmで表現されます。
両親からそれぞれ1つずつ受け継ぎ、2つの遺伝子によって
ダップルになるかならないかが決まります。
この遺伝子は優勢の遺伝子で、1つでもMがあればダップルの模様が現れます。
レッドやブラック&タンなど、ダップル模様のない親は、
mmという遺伝子のパターンを持つことになります。
また、シルバーダップルなどと呼ばれている毛色は、ダップルとそうでない親の組み合わせから
生まれてきた犬で、その遺伝子パターンはMmとなります。
ここで問題になるのは、両親ともダップルの場合に発生するMMというケースです。
マール遺伝子は、半致死遺伝子と呼ばれることもあり、MMのパターンを持つことで、
難聴・盲目・生殖機能や心臓などの異常を発生させてしまうのです。
このような理由から
ダップル同士の交配はしてはいけないと言われています。
◎クリームなど淡色の毛色
クリームなどの毛色は、色素を減少させる遺伝子が作用して現れる毛色です。
色素が減少し、アルビノ化が進むと、やはり体質的に弱くなってしまいます。
そのため、薄い毛色の犬を交配をさせる場合は、十分注意して相手を選び、
色素の減少を防ぐ必要があります。
◎異なる毛質間の交配
もともとスムースヘアーだったダックスフンドに、多種多様な犬を掛け合わせることで、
ロングヘアーやワイヤーヘアーのダックスフンドが生まれてきました。
新しい特徴を持つ犬を作出するために、時にはこのような交雑が必要なこともあります。
ですが、現在のダックスフンド達は、
すでにそれぞれの毛質の犬たちはその特徴が固定されています。
普通にスムースとスムースを掛け合わせればスムースの子犬が産まれます。
日本では特に異毛種間の交配に対しての規制はありませんし、
万が一そのような交配を行ったとしても血統書を発行することができます。
だからと言って、すでに固定されているそれぞれの毛質の犬を、あえて別の毛質の犬と
掛け合わせる必要はなく、それが返ってその毛質の特徴を損ねる原因になります。
なので、
異なる毛質間の交配は、基本的に避けるべきでしょう。
ここにあげた例は、ほんの一部です。
毛色を構成する遺伝子の種類もたくさんありますし、その組み合わせも限りなくあります。
ここでの説明も初心者向けに、かなりかいつまんでありますので、実際にダックスフンドの
繁殖を行う場合には、もっと詳しく勉強する必要があることを絶対に忘れないでください。
安易な繁殖や、レアカラーにこだわりすぎた無理な繁殖は不幸な子犬を増やすだけです。
一人一人が、命ある動物に対する責任とモラルを持って繁殖に関わって欲しいと、
心より願っております。
元気で活発なダックスフンドですが、やはりかかりやすい病気や遺伝性疾患などもあります。
胴長短脚というその身体的特徴から、もっとも多いのが
腰のトラブルです。
もともと胴長であることから腰への負担は、他の犬種よりも大きいはずです。
それに
肥満などが加わるとさらに腰への負担は大きくなります。
ダックスフンドのような胴長の体形の犬種には、軟骨の形成が十分でないものも多く、
それに日常生活での腰への負担が重なり、
椎間板ヘルニアなどの疾患へと発展していきます。
歩いているときに足元がふらついたり、後ろ足を引きずったり、あまり動きたがらないなどの
様子が見られたら、椎間板ヘルニアの可能性があります。
早めに病院へ行き、検査をしてもらいましょう。
椎間板ヘルニアは、軽度なものなら上記のような症状を示すだけで、
一定期間の安静と内科的治療で治すことができます。
でも、病気が進行し、より深刻な状態になると、後肢の感覚が完全になくなり、
器具などを使って強い刺激を与えてもまったく反応しなくなってしまいます。
後肢を使って歩くことはもちろんできませんし、排泄なども自分でできません。
このような状況になった犬と暮らしは、今度は飼い主への大きな負担となってくることでしょう。
症状を悪化させる原因は、肥満と腰への負担が大きい生活です。
食欲が旺盛で、何でも喜んでおいしそうに食べる姿はとても微笑ましく、
ついついおやつなどを過剰にあげてしまうものですが、ダックスフンドに肥満は大敵です。
肥満は腰への負担だけではなく
糖尿病などの原因にもなります。
普段から腰に無理な負担をかけない適切な運動を行い、しっかりとした食事の管理も
心がけるようにしましょう。
また、フローリングなどの滑りやすい床も、腰への負担は大きいものです。
犬の生活する場所だけでも、ラグやマットを引くなどの工夫をしてあげてください。
他にも、ダックスフンドのかかりやすい病気や遺伝性疾患として、次のようなものがあります。
・膝蓋骨脱臼や股関節形成不全などの関節疾患
・耳ダニや外耳炎、内耳炎などの耳の病気
・進行性網膜萎縮症(PRA)、角膜異栄養症(角膜ジストロフィー)などの目の病気
・甲状腺機能低下症やクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)などのホルモン異常による病気
・陰睾丸や心奇形、視覚障害、聴覚障害などの先天性疾患